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読書録「重力ピエロ」

「重力ピエロ」 伊坂幸太郎・著  新潮文庫

泉水と春は、仲のいい兄弟である。
どちらの名前も英語にすると「スプリング」になる。
兄弟の名前に連続性を持たせた両親が、
彼らの名前にかけた願いとは?

あるとき、兄の泉水が務めている会社が放火の被害に遭う。
その頃、仙台市内では放火事件が連続していた。
そして、弟の春によれば
放火とグラフィティアート(壁の落書き)に関連があるらしい。
グラフィティアートに隠された暗号を解き明かし、
放火犯を捕らえようとする二人だったが・・・


この兄弟が、実は半分しか血が繋がっていないことは、
かなり早い段階で明かされる。
異父兄弟なのだが、それだけなら特別なことはなにもない。
実は、弟の春は母親がレイプされたことによって産まれた子供なのだ。

現実の世界で、レイプ被害により産まれた子供がどれだけいるのかは知らない。
けれど、もし、このような過去を持つ家族がいたとしたら、
暮らしていく上で数々の困難が待ち受けているだろうことは想像に難くない。
はたして、この家族の父親、母親のように
強い気持ちを保ち続けることができるだろうか・・・
そして、その存在自体が過去のできごとを思い出させる当の子供は、
真実を知ったとき、どんなに衝撃を受けることか。

普段、何気なくかわされる会話として、
「○○ちゃんはお父さんにそっくりね」というのがある。
あるいは、「△△ちゃんは、お母さんにそっくりだけどお父さんとは似てないね」など。
言った方は悪気はなくても、
言われた方にしてみれば、心を深くえぐられることかもしれない。
離婚・再婚が当たり前という環境であれば、
生みの親と育ての親が違うというのは珍しいことではない。
しかし、今の日本ではまだまだ育ての親=生みの親という認識である。
その常識が通用しないかもしれない、
などという気遣いがなされることは少ないだろう。
悪意なき無神経に傷ついている家族がいてもおかしくはない。

重い過去を背負った本書の家族であるが、
彼らの間で交わされる会話からは深刻さを感じられない。

「本当に深刻なことは、陽気に伝えるべきなんだよ」

これは春の言葉だが、伊坂幸太郎の作品すべてに当てはまることではないだろうか。
伊坂作品の登場人物たちは、
みんな深刻な話題でも深刻ぶって話すことはない。
むしろ、あえて肩の力を抜いたような、
とらえどころのない表現をして飄々としている。
それを「軽妙」ととるか「軽い」と感じるかで、
伊坂作品に対する評価が分かれるのではないだろうか。

「重力ピエロ」は、それまでの伊坂作品と比べれば
扱っているテーマは限りなく重い。
しかし、重い過去を背負っているはずの家族の会話は、
表面上を軽く滑っていくような感じで進められていく。
そのことに違和感を覚えてしまうと、読みづらい面があるかもしれない。
文中にしばしば出てくる、遺伝子やコドンについての記述に疲れるよりも、
テーマと文体の剥離に疲れてしまう可能性があるかもしれない、
わたし自身は、深刻な話を真面目に話すのは苦手である。
冗談や例え話でくるみ、笑顔を浮かべながらさらっと流したいと思う。
だから、ここで交わされる会話というのは
わたしにとっては自然なものとして受け止められ、
違和感を感じることはなかったのだが。

親子の関係とは難しいものである。
わたし自身は、生みの親より育ての親の方が
実際の「親」としての価値があると思うのだが、
それは生みの親と育ての親が一致しているからこその感じ方かもしれない。
親子のあり方についてよく描かれている作品として、
わたしは赤川次郎の「愛情物語」を思い浮かべる。
「重力ピエロ」も「愛情物語」もミステリの体裁をとってはいるものの、
そこに描き出されているのは「親子とは?」という問いかけである。
遺伝子だけではない、真のつながりというものを考えさせられる作品である。
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